那覇市の国際通りに近い桜坂というところに「おでん悦ちゃん」というお店があった。
名物はトロトロに煮込まれておでんの出汁がじっくり染み込んだテビチ(豚足)。絶品だった。
もう十数年前のことだが、私は沖縄に単身赴任していて週に1〜2度は悦ちゃんに顔を出し、島酒(泡盛)と一緒に美味しいおでんをいただいていた。
ここのママは、強く優しく、シビアでいて、心の温かい素敵な女性だった。
きっとこれまで色々な人生経験をされてきたのだろう。
お店の入口には鍵がかかっていて、ノックをしたらママがドア越しに確認して入店できるというスタイルだった。
「なぜ鍵をかけているの?一見さんお断り?」
お客さんからの質問に対して「いいえ、前に酔っぱらいが入店してきて大変なことがあったの。一人でお店をやっているでしょ、その対策のため」ということだった。
ママは自分のプライベートの話はほとんどしなかった。
悦ちゃんというのも先代の名前で、本当は確か康子さんだったと思う。
そして通い始めて間もない頃、沖縄芝居の重鎮の娘さんで、Coccoの叔母さんだということを知った。
Coccoとの関係を知っているお客さんが「姪っ子さんの樹海の糸は名曲ですね」と、ママに向かって熱弁をふるうのを見たことがあった。
「そうですか、ありがとう。でもよくわからないの」といなしていた。
姪っ子は姪っ子、私は私という毅然としたところも魅力的だった。
ただ一度だけ「父の芸能の血は姪に遺伝したんだろうね」とポツリと言っていたのを聞いたこともあった。
このおでん悦ちゃんは2016年の秋に閉店した。
この時、私は沖縄を離れて福岡にいた。
閉店のことはしばらく知らなかった。
突然ママが亡くなったという噂だった。
もしかしたら悪いところを抱えながら、亡くなる直前までずっとお店を頑張っていたのかもしれない。
この年、2016年の春に沖縄に行く機会があった。
もちろん悦ちゃんを訪れた。この時はまだ元気なママだった。
今思うと亡くなる半年前に会えて、いろいろと話ができたのは本当良かったと思う。
今更ながらご冥福をお祈りしたい。
60歳を目前に控えた私は正直Cocco世代ではない。
でもこういう背景から、私が個人的に沖縄の風を感じることができるのは唯一Coccoだけだ。
もちろんBIGINも好きだし、沖縄にいた時はモンパチの野外フェスに参加したこともある。
でもどうしても在りし日のママの存在と被り、Coccoに沖縄を感じてしまう。
2022年5月23日(月)、Zepp FukuokaにCoccoのライブを観に行った。
座席は1階の一番後ろ。
でも座席の位置などどうでもいい。Coccoが歌い、舞うのを観ればよい。
今回のツアーは、本人が「サービスも何もないセットリスト」と言っていたとおり、ここ最近のアルバム2枚と新曲のみで構成されていた。
往年のヒット曲は一切なし。
演奏時間も1時間半。アンコールもない。
でも全く不満はなかった。
Coccoの独特な世界観、まるで幻想的な芝居を観ているようだった。
Coccoはステージで歌い、叫び、何度も泣いて自由に舞っていた。
何故か涙ががこぼれた。
やっぱりCoccoは自分にとって「沖縄の風」だった。
後日、NHKの音楽番組SONGで顔を半分隠したまま出演しているCoccoを観た。
おいおい、テレビなのにこんなのありかと笑いながら思った。
やはりCoccoは自由だ。
秋からは25周年にベストツアーが再び開催されるという。
11月29日(火)の福岡公演のチケットを購入することができた。
今度はどのようにステージで舞ってくれるのだろう。
楽しみだ。
Cocco Live Tour 2022 "プロム" セットリスト(2022年5月23日)
1. White dress
2. ひとひら
3. コバルト
4. True Lies
5. アイドル
6. ラブレター
7. ままいろ
8. 結い
9. 恋い焦がれて
10. 女一代宵の内
11. PROM
12. 潮満ちぬ
13. (新曲)
14. 夜喪女
15. Rockstar
16. 光溢れ
17. 7th floor
18. 嵐ヶ丘
19. L-O-V-E
20. 星の子ら
【最後に一言】
今でもこの場所を通るたび、在りし日のママの笑顔を思い出してしまいます。
女優の洞口依子さんもママが大好きということでした。<記事はこちら>
沖縄には人をひき付ける何かがありますね。
私も再び近いうちに出かけたいと思います。